伸びやかに、爽やかに/シュタインバッハー & ドホナーニ & フィルハーモニア管

Arabella Steinbacher (Violin)
Christoph von Dohnányi (Conductor)
Philharmonia Orchestra

2010年12月2日(木)19:30 -
Royal Festival Hall, Southbank Centre, London

Weber: Overture, Der Freischütz
Schumann: Symphony No.1 "Spring"
Brahms: Violin Concerto in D

 寒い日が続くロンドン。ここ数日で一番寒かった。それでもコンサート通いはやめられない。今日はドホナーニ指揮のフィルハーモニア。やや地味なプログラムだけど、ブラームスの協奏曲が聴きたくて行った。ドホナーニは10年以上前にクリーヴランド管の来日公演で聴いて以来。

 最初の魔弾の射手の序曲は、冒頭のホルンがやや苦しい。といっても、4番ホルンの音域が非常に低いので、これは仕方ない範囲かも知れない。なんて偉そうなことを考えていたのはここまで。その先は、本当に見事で完璧な演奏。
 何が完璧だったかというと、全ての楽器が豊かに響き合い、きちんとアンサンブルが整い、音楽は素晴らしく均整がとれていて、だけど小ぢんまりまとまったりせずに音楽は豊かに流れ、・・・とまあ、本当に正統派の、非の打ち所のない演奏だった。ドホナーニの音楽の特色はその自然さと豊かさ。全てが無理なく、自然なバランスの上に組上げられる。力みは一切ないので音楽は非常に爽やかに歌い、でも響きの作り方は純正統派のドイツ式なので音楽が上滑りすることもない。フィルハーモニアも持ち前の、芯が通っていながら暖かく柔らかい音色でドホナーニの指揮に応える。まさに大家と名人集団の至芸。

 続くシューマンの交響曲も全く同じ。奇を衒うことなく正統派。でも堅苦しくならず音楽は自然に流れる。聴いていて本当に心地よい。余りの心地よさに・・・陥落。また今日も寝てしまった。ときどき目を覚ましては、自然でよく歌う音楽に耳を傾け、また気持ちよくなって陥落・・・を繰り返した。

 休憩を挟んでブラームスのヴァイオリン協奏曲。ソロはアラベラ・シュタインバッハー。この人の演奏を聴くのは初めて。鮮やかな真っ赤なドレスに身を包んで登場。ステージ上での立ち姿がとても素敵な美人で見とれてしまった。
 オーケストラの序奏はドホナーニがやはり自然に、そして懐の深さを感じさせる音楽を造り出す。比較的長い序奏の後で入ってくる力強いヴァイオリンのソロは、本人の舞台姿とよく似た、細いけどすっきりと明るくて魅力的な音色。特に高音部がよく伸びる音色でとてもきれい。ただ、シュタインバッハーはちょっと気持ちが昂っていたのか、力強いけれど少し前のめりな印象の演奏だった。それまでのオーケストラがドラマティックな部分も金切り声を上げずに、ずっと余裕のある歌い方をしていたので、ちょっと印象が合わない。でも、その後の優美な第1主題の歌わせ方はとても良かった。大きく広がる円弧を描くように、ゆったりと歌わせる。
 彼女の演奏で素晴らしかったのは、ある旋律から別の旋律に移るときのルバートの掛け方がとてもうまくて音楽的なこと。人工的な感じや効果を狙った嫌らしさは全くなくて、知らず知らずのうちに聴き手の気持ちを持ち上げておいて次の旋律にごく自然につなぎ、そこで伸びやかに次の旋律を歌わせて聴き手をすーっと自然に音楽に乗せる。この緊張がほぐれる瞬間がたまらなく気持ちいい。ドホナーニもこれにとてもうまく、そして相変わらず自然に合わせていて、ソロとオーケストラが自然な一体感で一つの音楽を作り上げていく。

 途中からはシュタインバッハーも肩の力が抜けてきたようで、ドホナーニの作る豊かな音楽に乗せて、彼女の持ち味を存分に発揮しながら歌心あふれる演奏を聴かせてくれた。音楽が自然に流れるのでブラームスのある種の曲にある重苦しさや憂鬱とは無縁の、爽やかな音楽になっていた。ドホナーニとシュタインバッハーが演奏すると、この音楽も青春のほろ苦さではなく甘酸っぱさを感じさせるものになる。(と大真面目に書いていて、自分でも恥ずかしいぞ。)

 2楽章は冒頭のオーボエソロがとてもきれい。その後に入ってくるヴァイオリンも、また別の美しさで、こういうゆったりした旋律の歌わせ方は彼女は本当に上手。ちなみにこの楽章を聴いていて、ふとヴァイオリンのソロの譜面が、ブラームスのピアノ協奏曲1番のピアノ独奏の譜面とよく似ているのではないかということにも気付いた。
 3楽章も音楽は自然に流れる。彼女はかなり高度な技術の持ち主だと思うけど、メカニックの冴えを前面に押し出すような演奏は決してせず、どんなに難しい譜面を弾いても歌が聴こえてくるところが素晴らしい。そして、ドホナーニの音楽作りも影響しているのか、その音楽は伸びやかで爽やか。明るく優しい、素敵な演奏だった。

 終演後は拍手に応えてアンコールを一曲。ヴァイオリンに疎い僕には何の曲か分からなかったけど、相当技巧的な音楽だった。ブラームスの大曲を弾いた後なのにすごい集中力で、でも技巧よりも歌がしっかり聴こえてくる彼女らしい演奏。協奏曲ではオーケストラに隠れがちだった低音部の音色の豊かさもしっかり楽しめた。

 今日は寒かったからか、あるいはバービカンでシャイー指揮のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管の演奏会があったからか、恐らく両方の理由でお客さんは少なかった。お客さんは少なかったけど、心が明るく軽くなるような、とてもいい演奏会だった。
[PR]
by voyager2art | 2010-12-03 09:13 | オーケストラ


ロンドンを起点に、音楽、写真、旅などについて書いていきます。メールは voyager2artアットマークgmail.comまでお気軽にどうぞ。


by voyager2art

プロフィールを見る
画像一覧

カテゴリ

全体
オペラ
オーケストラ
ピアノ
室内楽
器楽
バッハ平均律1巻
バレエ
ジャズ
写真
絵画
演劇
雑感
楽譜

旅行記
旅行情報
旅行下調べ

その他
未分類

最新の記事

こっそりとお知らせ
at 2012-04-10 06:02
このブログを終了します
at 2012-03-01 06:35
超期待!の若手/ブニアティシ..
at 2012-02-26 02:18
寄り道香港
at 2012-02-14 07:13
京都
at 2012-02-13 04:54

最新のトラックバック

Debussy & Sz..
from MusicArena
Brahms: Vn-C..
from MusicArena
音遊びをする人たち シベ..
from miu'z journal ..
どんちゃん騒ぎのカタルシ..
from miu'z journal ..
LSO/ティルソン=トー..
from LONDON BORING ..
例えばE=mc2の美しさ..
from miu'z journal ..
フィルハーモニア管/マゼ..
from LONDON BORING ..
ロイヤルオペラ/『三部作..
from ロンドン テムズ川便り
久しぶりに上手いオーケス..
from miu'z journal ..
新しい注目株の予感
from miu'z journal ..

以前の記事

2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月

検索

その他のジャンル

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧