ベトナム便り その2 〜 ミーソン遺跡

 ホイアンの街から南西に30kmほど行ったところに、ミーソン遺跡という、1500年の歴史を持つ寺院跡があります。
 ベトナムは今でこそ南北に長い一つの国として認識されていますが、歴史的には中国支配の長かった北部、ヒンドゥー教(後にイスラム教)を受け入れたチャンパ王国が治める中部、カンボジア系の王朝に支配されてきた南部と分かれていた時期の方がはるかに長く、細かくみると地域による文化や人の性格の違いも大きいそうです。

 ホイアンや近隣のダナンは海上交易の拠点として栄えた街でしたが、この海上航路は非常に長い歴史を持ちます。

 奈良の正倉院の品物の中に、ペルシャの影響を受けたものがあるのは有名で、そこからシルクロードの存在に話を進めるのはよくある話ですが、一般にシルクロードといえば、中国から中央アジアを抜けてペルシャ、トルコへと至るルート(実際には一本の道ではなく、無数のルートからなるネットワーク状のルートの総称です)を思い浮かべることが多いと思います。
 しかし、そのほかにももう一本、重要なルートとして存在したのが、ペルシャ湾からインド沿岸を伝い、マレー半島を回ってマカオ等に至る、いわゆる海のシルクロードです。ホイアンもこの中継地点に位置します。

 この海上ルートの歴史は極めて古く、紀元一世紀にはすでに交易路として確立されていたそうです。
 海路の開拓といえばヨーロッパ人による15世紀からの大航海時代が有名ですが、これはヨーロッパとインド航路を結びつけるものであって、インド航路自体ははるかに古い歴史を持ちます。

 ちなみに、陸上のシルクロードは古来、多数の民族が入り混じる地域を通っていたため、交易の富の独占を巡って幾多の王朝が栄枯盛衰を繰り返してきました。そんな中でルート全域を支配下に収めたのが、かのチンギス・ハーン率いるモンゴルの大帝国で、彼の死後もしばらくは陸のシルクロードの平和は保たれました。これをパクス・モンゴリカ(モンゴルの平和)と呼ぶこともあります。

 この時期には政治的な安定を背景に陸上交易が栄えましたが、やがてモンゴル帝国が衰えると再び群雄割拠の時代に入ります。
 折しもヨーロッパでは香辛料の需要が増え、一攫千金を夢見た船乗りたちが海路による安定した交易路を開拓したのが、大航海時代の始まりの背景でした。
 こういうことを考えると、世界のグローバル化なんてものは今に始まったものではないと強く思います。昔から人間は、それが本能であるかのように地球上を駆け巡っていたのです。


 この海のシルクロードを通ったのは人と商品だけではなく、文化も運ばれました。タイ・ラオス・カンボジア・ミャンマーの主要な宗教である上座部仏教は、セイロン(今のスリランカ)から海を渡って東南アジアに伝わりました。インドからは仏教だけではなくヒンドゥー教も伝わっています。また、イスラム商人たちによってイスラム教も東南アジアに伝搬しました。

 イスラム教については、今もマレーシアやインドネシアがイスラム国であることから簡単に理解出来ると思いますが、ヒンドゥー教については見落とされることが多いように思います。しかし現に、タイの古代神話はラーマキエンといって、インドのラーマヤナのタイ版です。タイやカンボジアに共通する創世記である「乳海撹拌」の神話もインドからそのまま輸入されたものです。
 乳海撹拌のモチーフはバンコクの空港にも大きく飾られていますし、カンボジアのアンコールワットもヒンドゥー寺院であって、乳海撹拌の大きな壁画が飾られています。
 また、バンコクの市内にはブラフマーやガネーシャを祀った場所がいくつもあり、タイ王室の正式な寺院であるワット・プラケオも、仏教寺院でありながら、階段の手すりがナーガというヒンドゥーの蛇神になっていたりします。

 このヒンドゥー教の伝搬はタイとカンボジアで終わらず、ベトナムにも伝わりました。今回訪れたミーソン遺跡も、そんなヒンドゥー教寺院の遺跡で、最も古いものは4世紀頃には建てられ始めたそうです。


 人の少ない朝一番の遺跡に入場するため、午前5時出発のツアーに参加しました。天気はあいにくの雨。先日の飛行機以来どうもついてないと思いながら、バスにゆられてサイトに向かいました。
 到着後、入場券を買い、ついでに脇の売店でレインコートを購入。ところが、いざ入場というところで突然雨が止みました! ラッキー!

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 サイトは森の中という感じで、雨の後なので空気はとても湿っていましたが、気温が低かったのでしっとりと気持ちよかったです。

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 遺跡はさすがに古いため、一番保存状態が良いものでも、もう崩れかけ。はっきりとした装飾などはもうあまり残っていません。

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 でも、こういうのを見ていると、昔の人たちがここで活発に寺院を建て、信仰を捧げた風景が見えてくるようで感慨深いものがあります。

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 首のないシヴァ神の像。

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 シヴァリンガは男根と女陰を合わせた豊穣のシンボル。ヒンドゥーの典型的なシンボルの一つです。

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 下の碑文の文字は未だ解読されていないそうです。僕はこういう古代文字になぜか非常に惹きつけられるものを感じます。大英博物館のヒエログリフなども大好きです。

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 もうこんなになって土台だけ残った場所もあります。

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 結局、観光中は雨は降らずじまい。バスに戻って帰路についたところでまた雨。本当に運のいい日でした。

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by voyager2art | 2010-12-25 23:57 | 旅行記


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