昔語り/マゼール & フィルハーモニア/マーラーサイクル

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 マゼールとフィルハーモニア管によるマーラーサイクル。今夜は9番。実は二日前にも同じシリーズの演奏会があり、マーラーの10番アダージョと大地の歌という、マーラーの作品の中でも僕が最も好む2曲の演奏だった。ところが、先日引いた風邪が治ったと思ったらまた別の風邪をもらってしまったらしく、体調が再び悪化していて10番を聴いたところでギブアップ。非常に遅いテンポの演奏で、このままの調子で大地の歌を演奏されたら体力が持たないと悟って音を上げてしまった。
 ただしこの10番、そのテンポの遅さゆえにオーケストラのアンサンブルが崩壊する手前まで行ってしまった異色の演奏で、恐らく録音で聴くとその合奏の乱れが許容できないところまで崩れていると思うけど、それが実演では異様な緊張感を帯びてこちらに迫ってきた。
 この調子だと今日の9番も相当遅いのだろうけど、上手くいけば狂気を帯びた面白い演奏になるに違いない。久々に体調も戻ってきて、気合いたっぷりで会場に向かった。


G. Mahler: Symphony No.9

Lorin Maazel (Conductor)
Philharmonia Orchestra

1st October, 2011 (Sat) 19:30 -
Royal Festival Hall, Southbank Centre, London


 その演奏、始まってみると予想通り遅い。本当に遅い。ひたすら最初から最後まで、ずっと遅かった。途中で一瞬、ああ速くなったかなと思っても、演奏が続くうちにまた遅くなる。一楽章だけで40分。先日聴いたノリントンだったら、40分もあれば2楽章の終わりか、もしかすると3楽章の真ん中あたりまで演奏していたかもしれない。遅くても緩急がついていればまた印象は違ったと思うけれど、どこを取っても慌てず騒がず、静かなところも音量が大きく盛り上がるところも、楽譜に書いてある以上の表現は何も加えず、同じスケールでずっと続く。潔癖なまでにデフォルメを避け、執拗なまでに同じ語り口で語り続ける。こちらも我慢に我慢を重ねて聴いているけれど、有り体に言えば、これは老人の気の遠くなるほど長い昔語りを、いつ果てるともなく聞き続けるような感じだった。

 それでも何とか我慢して聴き続けられたのは、一つにはオーケストラの熱演によるところが大きい。奏者の側にも相当なストレスが溜まっていたのではないかと思うし、実際トランペットやホルンのソロでは思わず駆け出してしまったり、募るイライラのせいではないかと思うようなミスも見られた。それでも、全体としてはこの非常に遅いテンポの中でも決して集中力を切らせず、驚異的な粘りで技術・表現ともに極めて高い水準を保ち、最後まで演奏し切っていたと思う。
 それからもう一つ、とにもかくにも僕に今日の演奏を最後まで聴き通させた一番大事な点は、マゼールが一切の虚飾を排して、徹頭徹尾誠実に演奏していたこと。何か前代未聞の効果を狙ってやろうとか言うようなわざとらしさは一切なく、年齢を重ねたマゼールが、今の心境に忠実に音を積み重ねていったら今日の演奏になったということは間違いない。そこには、長い間クラシック音楽会の最前線を走ってきた彼だからこその説得力があった。

 今日の演奏を聴いていて、延々と積み重ねられた淡々とした語りの持つ誠実と真実の重みは何より印象的だった。これが今までのマーラー演奏にはなかったスタイルであることは間違いないけれど、ではこれが普遍的な価値、あるいはこれまでの価値観を突き崩すような新しさを持つかというと、僕はそうではないと思う。今日の演奏から僕が感じたのは、心を揺さぶる深い感動とは何か別のものだった。それは恐らく、カラヤンやバーンスタインといった大家たちとも一部重なる年代に活躍した一人の指揮者が、老いという誰も逃れることのできない宿命の中で、その芸術を変容させていくのを目の当たりにしているということへの感慨なのだろう。

 最初の予想とは異なる後味の演奏だったけれど、疲労だけではない何かが心の中に残る演奏ではあった。
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by voyager2art | 2011-10-02 07:56 | オーケストラ


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