サドラーズウェルズのポルーニン/Men in Motion

 守屋さんのブログでポルーニンがサドラーズウェルズに出ると知ったので、急遽チケットを買って行ってきた。少なくとも当分の間はこれがポルーニンの見納めだろうし、僕はロイヤルバレエの男性陣の中では最近ポルーニンが一番面白いと思っていたので、見逃したくなかった。
 イベント自体は、ロイヤルバレエの元プリンシパルであるイヴァン・プトロフの名を冠した"Men in Motion"という公演で、プトロフをメインに男性ダンサーを中心とする演目が並ぶ。プトロフが退団したのはつい最近ということで、僕が最初に観たロイヤルバレエ公演のくるみ割り人形のプログラムにも彼の名前が出ていたから、知らないうちに彼を観たことがあったかもしれない。でも、僕が踊り手の名前に注意するようになるまでには少し時間が掛かったし、その後も当分は女性ばかり見ていたので、男性陣の顔と名前と踊りが頭に入ってきたのはほんのここ最近。ということで、プトロフを彼と意識して観たことは一度もなかった。

Ivan Putrov
Men in Motion

Le Spectre de la Rose (Igor Kolb, Elena Glurdjidze)
Narcisse (Sergei Polunin)
Dance of the Blessed Spirits (Ivan Putrov)
(Interval)
AfterLight (Part One) (Daniel Proietto)
Ithaka (Ivan Putrov, Elena Glurdjidze, Aaron Sillis)

28th Jan, 2012 (Sat) 19:30 -
Sadler's Wells, London


 最初の演目の踊りがかなり残念な出来で、何だこれはと思っていると続いてポルーニン登場。舞台に出てきてからジャンプしたのか、ジャンプしながら登場したのか、今となってはよく憶えていない。とにかくその最初のジャンプで、いきなり雷に打たれたような衝撃が走った。人間離れした高さと力強さ。絶対的な威力ともいうべきものがそこにあり、圧倒的で揺るぎない表現がそこから溢れ出していた。その後もジャンプで魅せるかと思えば、笛を吹いて目には見えない誰かに語りかけ、何のセットもない舞台に現身(うつしみ)と幻影の二つの世界を鮮やかに作り出す。最後はシンプルな照明の中に豊かな情感を残しながら消えて行った。ほんの数分の舞台だったけれど、あまりの見事さに圧倒された。

 彼がロイヤルバレエを退団したというのは本当に残念なことだし、伝え聞くようにたとえポルーニンが身勝手な性格であったとしても、そういう人材を組織の中に留めておけなかったということは、ロイヤルバレエという組織の将来にわたる活性化を考えたときに、小さからぬ失敗だったかも知れない。今後ロイヤルバレエが男性陣をどう立て直していくのか、気がかりでもある。
 ただ、ポルーニンの側から考えると、今回の退団は彼にとっていいきっかけになる可能性もあるに違いない。これだけの才能の持ち主なので、バレエの外も含めて広い世界を経験することは、彼が今後も踊り続ける限りにおいては、彼にとって有益なことだろう。問題は彼が本当に踊り続けるか、というところで、こればかりはよく分からない。休憩時間に守屋さんが言っていたのは、彼を上手く導いてくれる人がいるかどうかということで、僕も全く同意見。良くも悪くもポルーニンはまだ若いので、この先彼がどう進むかという点において、危惧するところがないわけでもない。
 とはいえ、舞台で観衆に囲まれてライトを浴び、そこで何かを表現するということには悪魔的な快感があるものだし、これを一度でも経験した人間が、舞台と簡単に訣別できるとも思えない。いつになるかは分からないけれど、一回りも二回りも表現の幅を広げたポルーニンが、また我々の元に戻ってきてくれることを願って止まない。


 この日の公演でもう一つ印象に残ったのが、ダニエル・プロイエットという人が踊った"AfterLight (Part one)"だった。サティーの静かな音楽に乗って、極めて激しい動きの踊りが延々と続く。まるで、人がその生の中で圧迫され、苦悩し、必死で抵抗しているさまを、神か悪魔の視点に立って外から客観的に眺めているような舞台だった。音楽が静かなだけに、より踊り手の悶えるような動きが鬼気迫るような迫力を帯びてくる。これは恐らく、見る人ごとに非常に多様な解釈を許すに違いない。人はみんな自分の人生の中で精一杯苦労しているけれど、それはどれも外から客観的に見ればちっぽけな世界で苦しんでいるに過ぎない。でも、それが人間というもので、「人間って素晴らしい!」というほど人生単純ではないけれど、そんなに悪いものでもないだろう、と言っているように僕には見えた。今回の公演で一番の拍手とブラボーを集めていたのがこれだった。


 肝心のプトロフだけれど、技術的に特にこれがすごいという感じでもないけれど欠点もなく、表現も過不足なくまとまっていた。いい意味でも悪い意味でも、ロイヤルバレエの元プリンシパルらしいなという印象だった。
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by voyager2art | 2012-01-29 19:55 | バレエ


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