マカオ 狂躁と静穏

 久しぶりに日本に帰国中。その日本への途上でマカオに立ち寄った。マカオは僕の好きな街の一つ。マカオの顔は何といってもカジノで、カジノ目当ての観光客(大半は中国本土から来る中国人)で昼も夜もごった返す。マカオのカジノ産業の売上は数年前にラスベガスのそれを抜いたと話題になったけれど、その後もすごい勢いで繁栄を続け、今では実にラスベガスの5倍に上るという。その一方で、マカオではポルトガル統治時代の建築遺物が世界遺産に登録されてもいて、それがまた多くの観光客を集める要因になっている。

 そんな華やかなマカオだけれど、賑わっているエリアから一歩外に踏み出すと、急に落ち着いた古い中国の佇まいを見せる。僕はかつてバックパッカーだったときに、この躁と静のコントラストと、特に古い街の雰囲気の虜になってしまい、細い裏道を何日も、それこそ朝から晩まで何かに憑かれたかのように歩き回り、とうとう足にマメができて一歩も歩けなくなってしまったことがある。「深夜特急」では香港が沢木青年にとって熱狂と興奮の場だったけれど、僕にとってはマカオがまさしくそうだった。
 マカオへは香港からフェリーで一時間。今回の帰国では香港経由便を選び、香港で二泊のストップオーバーを入れた。でも香港の空港に着くと、香港市内は通過しただけで、真っすぐフェリーターミナルに向かった。

 マカオの中心部は数々のホテルと併設のカジノが立ち並び、その間を貴金属店や高級食材店が埋め尽くす。ところどころに大衆食堂と高級レストランがあって、安っぽい猥雑さと巧まざる人懐っこさを併せ持った、独特の雰囲気を漂わせている。
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 このあたりにはマカオのランドマークタワーであるグランド・リスボアホテルが聳え立ち、辺りを睥睨している。ここから10分ほど大通り沿いを歩き、世界遺産にもなっているセナド広場を突っ切って進むと、もう一つの世界遺産であるセントポール教会跡に至る。火災のため前面の壁を残すのみとなったこの教会跡はマカオの観光客が必ず訪れる場所の一つで、とにかく人が多く、そのほとんどが熱心にカメラを構えている。ここに限らず、一般に中国人観光客の写真熱は大変なもので、どこにいってもポーズを取って自分たちの写真を撮りまくる。
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 この教会跡のすぐ脇には大航海時代の砲台が残っている。階段を登って砦の上にあがると、そこには大砲が何門も並んでいる。その大砲の先には今日の繁栄を謳歌するグランド・リスボアが立っていて、どこか象徴的。
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 このセントポールの参道沿いに土産物屋が並んでいて、ここに僕のマカオ訪問のお目当ての一つ、エッグタルトがある。
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 街歩き、路地裏探検の楽しいマカオで、歩き疲れて小腹が空くと僕はこのエッグタルトを食べる。甘いカスタード味で、初めてマカオに来たとき以来の大好物。これがなくなるとマカオの楽しさが三割くらい減ると、僕は本気で思っている。


 僕はここから脇道にそれていく。細い道を気の趣くままに、あてもなくひたすらぶらぶらと歩き続ける。落ち着いた生活感漂う空気が視覚から、嗅覚から、そして肌からも染み込んできて、僕の感覚がそれを喜び、馴染んでいくのがわかる。ここには飾り気のない素顔のマカオがある。
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 日が沈むとマカオは昼間とはまた違った表情を見せる。ホテルとカジノはギラギラと光を輝かせ、カジノ客は明かりに群がる生き物のように続々と集まって来ては、わいわいと大騒ぎしながら賭けに興じる。
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 セナド広場には春節(中国正月)の飾りが残り、お祭り気分のほとぼりがまだ引き延ばされていた。
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 脇には果物屋台があり、僕はそこからまた、細い路地の迷路にさまよい込んだ。
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 陽の光がなくなって人工の光だけになると、マカオの古い街並はますますその本来の姿を露(あらわ)にするように僕には感じられる。ここは500年前の昔から、海のシルクロードの東端の拠点として栄えてきた街だ。マカオは自然溢れる村ではなく、根っからの都市なのであり、ここの人々の都市生活は長い年月を経て一つの平衡点に達している。都市は人工物の総合体だから、人工の明かりだけに照らされたときに、その世界は人工の環の中に閉じて完結する。ここには揺るぎなく抜き難い秩序があまねく行き渡っていて、それが一つ一つの路地に染み付いている。この複雑に発達した秩序こそがこの場所の魅力の源泉であり、マカオの古い街並に、きらびやかさとは無縁ながらも、他には得難い穏やかな風情を与えていると僕は思う。一見くすみ、古ぼけてはいても、秩序とは美しいものなのだ。
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 最後はまたセントポールに出た。ほんの二泊の滞在だったけれど、久しぶりに訪れたマカオは以前と変わらぬ表情を悠然とたたえていたのが僕には何よりも嬉しく、楽しかった。
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by voyager2art | 2012-02-08 20:15 | 旅行記


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