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フィルハーモニア管弦楽団 定期演奏会

Juraj Valčuha, Conductor
François-Frédéric Guy, Piano
Philharmonia Orchestra

Royal Festival Hall, South Bank Centre
2010年4月11日(日)15:00-

曲目:
スメタナ:交響詩「モルダウ」
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番
ドヴォルザーク:交響曲第8番

 スロヴァキアの若手指揮者Valčuha(何と発音するのかわからない)とフランスのピアニストGuy(ギイと発音するらしい)により、フィルハーモニア管の定期。当日の日曜日の朝にネットで見つけて、当日券で入場した演奏会。指揮者もピアニストも名前すらまるで聞いたことのない人たちで,アマチュアの大学オーケストラのようなプログラム。少し迷ったけど、久しぶりにフィルハーモニア管の音を聴きたいと思い出掛けてみた。

 スメタナのモルダウはクラシック音楽入門の定番中の定番で、逆に実演で聴く機会は意外と少ない。ご当地出身の指揮者の演奏なので期待したけれど、拍子抜け。力ずくで無理に盛り上げようとすればするほど空回りしてしまって、例えば途中の素朴な舞曲の部分はゴツゴツして気味悪い演奏。その後の静かで神秘的な部分はうまく聴かせていたけれど、その後の激流ではまた力んで、オーケストラをコントロールし切れない。その後のコーダは突然速くなって無理矢理おしまい。一貫性の全くない演奏。

 続くピアノ協奏曲は、言わずと知れたベートーヴェン中期の傑作。一見したところ優美ながら、その優美さを支えるのに実は結構パワーも必要。なかなかいい演奏に出くわさない曲でもある。この曲を、ピアニストのギイは非常に上手く弾いた。
 彼の音は芯がありつつも華やかな、フランスらしい音。ただし表現自体に派手さはなく、かなり誠実に弾きつつ、しかもよく音楽を歌わせる。ベートーヴェンだからとことさら力まず、曲の持つ優美さと演奏スタイルがきれいにはまっていた。最初から最後まで安定した演奏で、この曲の実演としてはなかなかのものだったと思う。
 ちなみに、彼の音は大きなロイヤルフェスティバルホールでもよく通ってきたけれど、彼の本領はもう少し小さな室内楽用ホールで、ラヴェルやドビュッシーを弾いたときの方がよく分かるのではないかと思う。一度そういう形で聴いてみたいピアニストだと思った。


 休憩を挟んでドヴォルザークの交響曲第8番。有名な「新世界」交響曲と並んでよく演奏される曲。最初のモルダウの悪印象が余りにも強かったので、この曲の演奏もあまり期待せずに聴き始めた。演奏が始まると、予想通り最初は指揮者が力んで無理に盛り上げようとして空回り。音の表面ばかりが騒々しくなって聴けたものではない。やっぱりダメか、と思いかけたところで、次第に音楽自体の盛り上がりに支えられ、オーケストラと指揮者の呼吸が合ってきた。第1楽章半ば以降は力の込もった音になり、一気呵成に楽章を締めくくる。
 第2楽章は一転して静かに始まるけれど、モルダウでもそうだったように、この指揮者は静かな音楽の聴かせ方がうまく、いい形で演奏が進む。途中で舞曲が挟まったりファンファーレが鳴ったり、f(フォルテ)とp(ピアノ)の対比があったり、という部分でもしっかりとメリハリの効いたコントラストが冴え、秀演。
 第3楽章はヴァイオリンのえぐるような旋律で始まる。ここのリズムの取り方、音色の艶やかな美しさは実に見事で、この日の演奏の白眉と言ってもよい出来。楽章を通してフィルハーモニア管の弦楽器の音色の美しさが際立っていた。
 第4楽章はこの指揮者の積極性が完全に良い方向に出て、白熱した演奏となった。

 癖はあるけれど、今後どのように発展していくのかが楽しみだと思わせる何かを持っている指揮者だった。
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by voyager2art | 2010-04-12 03:34 | オーケストラ

ビシュコフ/ロンドン交響楽団 定期演奏会

2010年3月28日 Barbican Centre
19:30-

指揮:Semyon Bichkov
ピアノ:Denis Matsuev
London Symphony Orchestra

曲目:
ドヴォルザーク:謝肉祭序曲
ショスタコーヴィチ:ピアノ協奏曲第2番
ブラームス:交響曲第4番

 ビシュコフの指揮でロンドン交響楽団(LSO)の定期演奏会。ビシュコフは日本ではあまり話題に上らない指揮者だけれど、ロンドンでは人気があるようで、昨年(2009年)5月にはロイヤルオペラハウスでローエングリンを指揮しているのを聴いたけれど、素晴らしい演奏で客席も沸いていた。
 この日の演奏会でも、指揮台に立つだけで存在感充分。オーケストラからも信頼されているようで、ドヴォルザークの序曲から既にパワー全開。各楽器がよく鳴って、個々の楽器の音よりもオーケストラ全体としての響きが先に聞こえてくるような印象。元々技術的にもあまり難しい曲ではないので、オーケストラも安心して演奏していた。中間部の穏やかな部分はしっとりと聴かせつつ、その前後の活発な音楽は非常に積極的に音を鳴らし、音楽自体の内容は薄いながらも、序曲にふさわしく華やかで楽しい演奏だった。

 次いでソリストにマツーエフを迎えてのショスタコーヴィチ。マツーエフは極めて明瞭な音色を持ち、どんなに難しいパッセージでも決して崩れることの無い、恐ろしいほどの頑健な技術の持ち主。間違いなくロシアン・ピアニズムの伝統を汲む一人であり、最初の1フレーズで既に並大抵のピアニストではないことがわかる。彼の音には高次倍音が多く含まれているようで、LSOの凄まじい強奏にも負けることなくクリアにピアノの音が通り、また馬力のある低音域も印象的。
 ただし、それだけ印象的な技術の持ち主ではあったけれど、音楽的には残念ながら「機械的に正確な演奏」という以上のものではなく、全体の印象はつまらなかった。もともとショスタコーヴィチのこの曲が、彼独特の音階などは楽しめるもののそれほど魅力のあるものではない上に、マツーエフのピアノが機械的な正確さを徹底的に追及したようなスタイルなので、全体として非常に底の浅い演奏になってしまった。
 ちなみに協奏曲の後、マツーエフはアンコールでリャードフの「音楽玉手箱」という小品を弾いた。オルゴールの響きを模したようなかわいらしい曲だけれど、マツーエフはさかんにテンポを揺らす。恐らくショスタコーヴィチとの対比という意味も込めて、「表現的」に弾いたつもりだったのだろうと思うけれど、テンポの揺らし方が表面的でわざとらしく、普通に弾けば可憐なこの曲の魅力が、残念ながら台無しになってしまっていた。技術的には恐るべき水準に達しているピアニストではあるけれど、音楽の表現という点では課題の多いピアニストという印象を受けた。

 休憩を挟んでのブラームスは、ビシュコフの持ち味の良く出た、正統派の見事な演奏だった。第1楽章はやや遅めのテンポで開始。ビシュコフは時間を音で埋めてしまうのではなく、フレーズとフレーズのあいだに積極的に間(ま)を作っていて、その「間」がブラームス特有の寂寥感につながる。聴いているうちに、思考が過ぎ去った秋を思い返すような、ブラームスらしい苦みに満ちてくる。ただし演奏はそのまま終わるのではなく、徐々に白熱して最後は大きく盛り上がってこの楽章を終えた。
 続く第2楽章も同じくやや遅めに始まり、途中から盛り上げるパターン。フレーズ間ではかなり「溜め」を効かせていたけれど、前後のフレーズとのつながりが自然なので嫌味さは全くなく効果的。非常に息の長い表現につながっていた。
 第3楽章はやや速め。ただしここでもフットワークの軽いリズムを聴かせるというよりは、マッシヴな手応えのある正統派の演奏。オーケストラも充実した響きで指揮に応え、そのまま一気に第4楽章へ。これも極めて正統派で、随所に溜めを聴かせながらの内容の濃い演奏だった。管楽器のソロもさすがの高水準で、非常に印象的な演奏にまとまっていた。
 全体として、ビシュコフの表現作りの上手さとLSOの上手さがうまくはまったいい演奏会だった。
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by voyager2art | 2010-04-05 20:05 | オーケストラ

ティッツィアーティ/ロンドン交響楽団 定期演奏会

2010年3月25日 Barbican Centre
19:30-

指揮:Robin Ticciati
ピアノ:Simon Trpceski
London Symphony Orchestra

曲目:
シベリウス:「クリスティアン2世」組曲
グリーグ:ピアノ協奏曲
リンドベルイ:コラール
シベリウス:交響曲第7番

 ロンドン生まれの27歳の指揮者、ティッツィアーティによる北欧音楽の演奏会。グリーグのピアノ協奏曲はトルプチェスキがソロを担当。どちらも実演・録音を含めて初めて演奏を聴いた。

 シベリウスの「クリスティアン2世」はシベリウス初期の組曲で、明確な旋律と印象的な転調で構成されている。ティッツィアーティはロンドン交響楽団(LSO)のくっきりと色彩的な音色で、この曲を明瞭にさばいていく。シベリウス後期の広大さや深遠さとは無縁ながら、これはこれで美しい音楽。曲の途中からオーケストラの調子が出てきたようで、俄然音が充実してくるのが分かった。

 次いでグリーグのピアノ協奏曲。古今数多く作曲されたピアノ協奏曲の中でも、旋律の美しさとピアノ技巧の華やかさに満ちた,指折りの名曲。
 ピアニストのトルプチェスキはラフマニノフの協奏曲なども録音しているようで、最近のっているピアニストのようだけれど、今ひとつという印象を持った。フレーズとフレーズのあいだの間(ま)でとにかく急いでしまって、常に前のめりな印象。かなり神経質な人のようで、余計に表現意欲が悪い方に出てしまい、落ち着きのないせせこましい演奏をする。技巧的にはよく指の回るピアニストであるとは思うけれど、音色が繊細なのでパワー全開のLSOをバックにするとピアノの音がかすんでしまう。カデンツァに入って急に音が冴えて聞こえたので、この人は無理に協奏曲を弾くよりも独奏曲の方がいい演奏が聴けるのではないかという気がする。ただし全体として気取った弾き方をする上に前のめりなので、どういう曲が向いているのか今ひとつよく分からない。少なくともショパン向きではないと思うけれど、かといって今の段階では、彼のバッハやベートーヴェンが面白そうだとも思えない。
 ちなみにこの日の演奏では、終楽章だけはすばらしい演奏を聴かせていた。それまでの気取った表現から,突然表現が安定して自信に満ちた表情に変わり、技巧も冴えて音量も一回り大きくなった様な印象。グリーグの協奏曲の終楽章は舞曲をベースにした曲なので、リズムの不安定ももともと出にくい。おかげでこの楽章だけは楽しめた。ただし2楽章までと3楽章と、どちらが彼本来の演奏なのかは、僕にはよくわからなかった。


 休憩を挟んでリンドベルイのコラール。初めて聴く曲だったけれど、無調の現代曲ながら旋律感はしっかりとあり、ハーモニーも先鋭的なものではなく、不協和音を主体としつつもときに純協和音を使い、むしろ懐古的な印象さえ覚えさせる。そういう意味で、「現代音楽」でありながら非常に聞きやすい。この曲のハーモニーは本当に面白くて、提示された協和音が、プリズムで像が多重化するようにいくつもの和音に分解して、それらの和音が重ねて奏されるような扱いがとても印象的だった。

 シベリウス最後の交響曲第7番は僕の大好きな曲で、腕利きのLSOがどのような演奏をするか楽しみだったけれど、この日の演奏はややがっかりするものだった。テンポが速めに設定されており、この曲が表現するフィンランドの広大な空間や、日の昇らない冬の夜に満ちる極光がもたらす神秘などが感じられなかった。各旋律の歌い回しはさすがに上手かったものの、それだけではこの曲の持つ、空間と精神の広大さの彼方に人の魂を運んでゆくような深みが出てこない。ただしこの指揮者が年齢を重ねてから聴くと、また面白い演奏が聴けるのではないかという期待は感じさせられた。

 全体としては、LSOの技術的な上手さばかりが際立つ演奏会となってしまい、やや物足りなかった。
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by voyager2art | 2010-04-05 20:03 | オーケストラ


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