<   2010年 08月 ( 5 )   > この月の画像一覧

プロムス/メッツマッハー指揮 ベルリン・ドイツ交響楽団 & レオニダス・カヴァコス

PROM 34

2010年8月10日(火) 19:30 -
Royal Albert Hall, London

Deutsches Symphonie-Orchester Berlin
Ingo Metzmacher (Conductor)
Leonidas Kavakos (Violin)

演目:
 Schreker: Der ferne Klang - Nachtstück
 Korngold: Violin Concerto
 Mahler: Symphony No.7

 メッツマッハー指揮のベルリン・ドイツ交響楽団で、シュレーカー,コルンゴルト,マーラー7番というロマン派最後期の音楽を集めた演奏会。バイオリンはアテネ出身のカヴァコス。
 マーラーとシュレーカーとコルンゴルトは、この順番でだいたい20歳ずつ年齢が若くなる。全員オーストリアを舞台に活躍したユダヤ系の作曲家で、シュレーカーとコルンゴルトはナチスの迫害の影響を受けた点も共通している。シュレーカーは職を失った直後に病気(脳梗塞)で50代の若さで世を去り、コルンゴルトはアメリカに渡ってハリウッド映画に関わり、映画音楽に大きな変革をもたらした。
 完全に現代のオーケストラのレパートリーに定着したマーラーとは異なり、シュレーカーもコルンゴルトも、近年演奏機会が増えてきたとはいえ、まだまだ広く受容されたとは言い難い。

 この日の演奏を行ったベルリン・ドイツ交響楽団は、恐らく一度聴いたことがある。初めての海外旅行で学生時代にベルリンに行ったときに、旅行中の無理がたたって高熱を発していたにもかかわらず、フラフラの状態でチケットを買い(確か1500円くらいで平土間の席だった気がする)、翌日になって少し体調が回復したところでこのオーケストラを聴きにいった。プログラムは何かの現代曲とブルックナーの5番だった。余り病み上がりで聴くにはふさわしい演目ではないけど、そこは学生時代、僕もまだまだ若くて元気だった。
 ブルックナーを聴いていて、特に機動力が優れたオーケストラというわけではなく、合奏の精度もそれほど高くないのに、和音が常に安定したバランスで豊かに響くところにドイツオケの底力を感じたことを、今でもはっきりと覚えている。
 ちなみによく似た名前で、ベルリン・ドイツオペラというオペラ座がベルリンにはあり、もしかするとこの演奏をしたのはそこのオーケストラだったかもしれないけれど、今となっては確認する術もない。


 一曲目は、シュレーカーの名声を確立するきっかけとなったというオペラ「はるかなる響き」の中から「夜曲」。ロマン派の最後期を彩る、極めて色彩的な美しい音楽だった。不協和音の使用は限られているので、明確な和声感はあるものの、頻繁に転調を繰り返すので調性感のある音楽と言っていいのかどうかよく分からない。4管編成の巨大なオーケストラから多彩で芳醇な響きを作り出し、その音色の変化が転調と相俟って、聴いていて実に心地良い。
 この曲では和声は旋律を伴奏するものではなく、この頻繁な転調こそが音楽の主役となっている。もちろん旋律のようなものもあるけれど、それらは旋律としては完結することなく、あくまでも和声の変化を彩る断片として現れる。
 内容はまさに夜曲と言うにふさわしく、空想に遊ぶ快さやそこはかとない不安、心の奥の闇といったものが交互に現れては消えていく。面白いのは、旋律ではなく和音の変化を主体としているためか、情感の盛り上がりがかなり長く続くこと。旋律を主体にするとどうしても持続時間に上限があるけれど、和音の変化は限りなく続けられるため、他に例を見ないほど長いクライマックスが形成される。
 このシュレーカーという作曲家は、今では恐らく「ロマン派の残滓」というくらいの位置づけがなされているのではないかと思うけれど、この曲を聴く限りでは非常に面白かった。是非他の曲も聴いてみたい。

 続くコルンゴルトの協奏曲は、第二次大戦後にアメリカで書かれた曲。聴くのは初めてだったけれど、正直な感想を言えば、面白い音楽だとは思わなかった。オーケストラの書法は巧みで色彩的だし、オーストリアの後期ロマン派の流れを汲む音楽ではあったけれど、時折ハリウッド映画特有の虚仮威しの安っぽさが見え隠れしてしまう。音楽としてもそれ自体の魅力は乏しく、映画音楽として使えば効果はあるかも知れないけれど、単体で聴くと華やかな響きの割に訴えかけてくるものがない。
 僕の個人的な経験になるけれど、実はコルンゴルトの「死の都」というオペラの日本初演に立ち会ったことがある。井上道義氏指揮の京都市交響楽団が演奏会形式でこの演目を取り上げたときに、僕は裏方のアルバイトで働いていた。独特の色彩的な響きの印象は今でも覚えているけれど、音楽が安っぽいとは思わなかったように思う。作曲年代で言えば、死の都はまだ彼が23歳(!)だった1920年の作品なので、映画音楽の悪影響を受ける前だったということか。
 11歳のときに作曲したピアノソナタでリヒャルト・シュトラウスを震撼させたという才能が、ナチスの迫害のせいでハリウッドであえなく朽ちていったというのは、第2次大戦によってもたらされた大きな悲劇というほかない。
 ちなみに、ソロを弾いたカヴァコスは、華やかというよりも芯のある強い音の持ち主で、その演奏自体は非常に水準の高いものだった。


 長い前半のあと、休憩を挟んでマーラーの7番。ここからがまた長い。
 冒頭の震えるような導入を聴いて、ドイツ的な内部からの音楽の充実をはっきりと感じた。この導入部は宇宙が鳴動するような神秘感を覚える演奏もあるけれど、この日の演奏はことさらに外面の効果を演出することはしない。堅実に、内側から音楽を組み上げる。その導入部のテナーチューバのソロを聴きながら、突然、この演奏が素晴らしいものになるのではないかという直感があった。そして、実際にその通りとなった。
 第1楽章はこの曲中で最も長くて複雑な音楽だけれど、指揮者は頻繁にテンポを動かしつつ、しかも一貫性が完璧に保たれた演奏を作り上げた。オーケストラも、合奏の精度こそやや荒いものの、曲を考えれば仕方ない範囲であり、むしろ驚くべきことは、全パートがきっちりと有機的な関連を保っていることだった。
 マーラーの曲を演奏したことのある人なら分かると思うけれど、彼の音楽では各パートがそれぞれ、一見てんでバラバラのことを同時にやっている。そのため、演奏していると自分たちがいったいどこへ向かっているのか分かりにくい。しかしこの日の演奏は、演奏者全員が同じ方向に向けてそれぞれの役割をきちんと果たしていた。極めて演奏機会の少ないこの曲で、錯綜したマーラーの楽譜からこうして統一感のある音楽を作り出すというのはなかなかできることではない。
 多彩さではなく統一感のある音色は典型的なドイツのオーケストラの音だったけれど、それでも現代的な洗練も経験しているようで、必要なだけの華やかさを出す音色の幅は持っている。そして、指揮者もその能力を十全に引き出していた。

 僕はこの曲が好きでよく聴いているのだけれど、僕の頭の中にあるこの曲のイメージと、この日の演奏は非常に共通点が多かった。おかげで分析的に音楽を聴くことがうまくできず、この日はただ音楽の流れに身を浸していた。最後まで音楽の充実は途切れることなく、全楽章が素晴らしい密度の高さで演奏され、実に充実した80分間だった。
 ちなみに、あれだけ長い前半のあとにこの曲を演奏しているにもかかわらず、オーケストラの金管奏者たちが最後まできっちり吹き切っているのには感心した。ホルンの首席奏者は白髪頭の年配のおじさんだったけど、補助奏者も付けずに、ソロも合奏も完璧に吹いてのけた。トランペットも、終楽章の高音域も大音量もちゃんと最後まで吹いていて、参りましたと言うほかなかった。

 長くて内容もたっぷりの演奏会で、オーケストラの面白さを堪能した一夜だった。
[PR]
by voyager2art | 2010-08-12 06:52 | オーケストラ

プロムス / サー・アンドリュー・デーヴィス指揮 BBC交響楽団 & ルイ・ロルティ

PROM 31
2010年8月8日(日)19:30 -
Royal Albert Hall, London

BBC Symphony Orchestra
Sir Andrew Davis (Conductor)
Louis Lortie (Piano)

演目:
 Messiaen: Un sourire
 Mozart: Piano COncerto No. 17
 Parry: Elegy for Brahms
 Brahms: Symphony No. 4

 アンドリュー・デーヴィス指揮のBBC交響楽団による演奏会。ピアノはカナダ出身のルイ・ロルティ。どちらも名前は聞いたことがあるけれど、演奏を聴くのは多分初めて(のはず)。

 最初のメシアンのUn sourrire(ほほえみ)は、淡くて柔らかい響きの、メシアンらしい微妙な和音が続く静かな部分と、鳥の鳴き声を模したのであろう、跳ね回る音型(これもメシアンらしいのだけど)が何度か交替する音楽。BBC響の透明感のある管楽器の音色がよく合う。静かな部分は精妙に、動く部分は正確に演奏し、ホールの聴衆を、メシアン特有の永遠の安息の眠りのような世界に誘っていく。メシアンの音楽には、ワーグナーやマーラーとは全く違った形の魔力的な吸引力があって、それがよく出ていた演奏だった。

 続いてロルティのピアノ独奏でモーツァルトの17番。先ほどのメシアンとは打って変わって正統派そのもののモーツァルトの響きが序奏からいきなり流れてきた。全く違う音楽なのでこっちの頭の切り替えが少し追いつかなかったくらい。アンドリュー・デーヴィスの指揮は、腕達者なBBC響から気品のある正々堂々としたモーツァルトの音楽を引き出す。指揮もオーケストラも素晴らしい。
 ピアノが入ってくると、そこに更に彩りが増す。ロルティのピアノは明るい音で良く歌う。もう、モーツァルトを弾くのが楽しくて仕方ないという感じで、乗りに乗っているようだった。音楽が進むにつれてテンポやリズムの伸び縮みも増え、装飾音も入ってくるけれど、それをオーケストラが全く崩れることなく堅固な土台となって支えるので、音楽が崩れない。オーケストラがピアノの合いの手を入れるというよりは、しっかりしたオーケストラの上でピアノが自由に遊んでいる。これはこれで、モーツァルトの協奏曲演奏の一つのやり方だなと思った。
 終楽章では普通入らないような短いカデンツァもいくつか入り、とても楽しいモーツァルトの演奏となった。


 休憩をはさんで、初めて聴くパリーの音楽。パリーは19世紀後半のイギリスの作曲家。ブラームスへの哀歌ということで、恐らくブラームスの作風を意識したのであろう渋めの音楽。ただ、正直な感想としては、旋律も和声も色々と工夫はしているものの、こちらの心の底には届いてこない。端的に言うと、冴えない音楽。BBC響の演奏は相変わらず手抜きなしの素晴らしいものだったけれど、如何せん曲自体の魅力が薄い。

 そしていよいよメインのブラームス交響曲4番。この時点で既に演奏会が始まってから1時間半が経過している。プロムスでは音楽祭ゆえのサービス精神なのか、こういう長い演奏会もしばしば。ちなみに去年は、3時間に及ぶコンサートも聴いた。
 さてそのブラームス、これが徹頭徹尾正攻法の正統派。テンポの揺れも皆無ではないものの、最小限に抑えられている。色気のない演奏と言えなくもないけれど、この交響曲は演奏が進むにつれ、何か異様な盛り上がりを見せるのが常。この日の演奏も、1楽章の中盤あたりから盛り上がり始め、その昂りはもう誰も止められなくなる。怒涛の勢いで一楽章を終了。
 2楽章は暗くて痛いくらい孤独で、しかも抗いがたい魅力を湛えた音楽。BBC響のホルンの美しい音色に導かれ、孤独と豊穣という一見相矛盾する二つが共存する音楽が奏でられる。オーケストラの能力が遺憾なく発揮された演奏だった。
 3楽章はこのオーケストラの機動力を全開にして突き進む。冴えたリズムと明瞭な発音からもたらされる圧力は、ちょっと比類がない。
 これら先行楽章に比べると、最後のパッサカリアはやや間延びしたように感じた。フルートのソロの切々とした歌や、トロンボーンのコラールの天国的な美しさはもちろん素晴らしかったものの、最後の最後で盛り上がりきらなかった気がした。
 とはいえ、全体として高い水準の演奏であったことは間違いない。指揮者の正攻法の音楽づくりと、極めて高水準のオーケストラの演奏技術が見事な成果を収めていた。
[PR]
by voyager2art | 2010-08-09 21:08 | オーケストラ

プロムス / マーク・エルダー指揮 ハレ管弦楽団 & ポール・ルイス

PROM 27
2010年8月6日(金)19:00 -
Royal Albert Hall, London

Halle
Sir Mark Elder (Conductor)
Paul Lewis (Piano)

演目:
 Foulds: April - England, Op.48 No.1
 Beethoven: Piano Concerto No.3
 R. Strauss: Ein Heldenleben

 マーク・エルダー指揮のハレ管弦楽団による演奏会。ハレ管弦楽団と言えば、かつてのバルビローリとの名コンビで有名ではあるけれど、最近は余り名前を聞くことがない。確か5年くらい前に来日してマーラーの9番を演奏していたのをテレビで見たような気もするけれど、はっきり覚えていない。Wikipediaで調べてみると、イギリスでも最も長い歴史を持つオーケストラと書かれている。正直なところ、どんなオーケストラなのか、聴いてみるまでよく分からなかった。

 一曲目の冒頭の響きで、かなりびっくりした。音がとても色彩的で、柔らかいけれど艶がある。フォールズという人は名前すら聞いたことのない作曲家だったけれど、この曲を聴く限りではヴォーン・ウィリアムズと同じような典型的なイギリスの作風。柔らかく優しい響きで、穏やかな表情。少し霞んだような独特の響きがあって、クラシック音楽というより映画音楽に近い感覚がある。
 続くベートーヴェンの協奏曲は、先日もプロムスで聴いたルイスの独奏。この日も快速さわやか系で飛ばすのかと思いきや、ピアノ独奏の入りでかなり力の入った演奏を始めた。ただ、もともとがさっぱりとした演奏をする人なので、そこで力を入れても全体としては中庸なところでバランスしてしまい、今ひとつ特徴の見えにくい演奏になってしまった気がする。相変わらず水準の高い演奏ではあるのだけれど、余り印象には残らなかった。

 休憩を挟んで、シュトラウスの大曲「英雄の生涯」。これはかなりの難曲でもあるので、このオーケストラがどういう演奏をするのか興味があったけれど、これがなかなかの名演奏だった。
 ハレ管弦楽団は、恐らく「イギリスの地方都市のオーケストラ」というのが、そのままだけれど一番正確な形容で、重心のやや高い金管楽器や、切ない音色のホルン、鮮やかな音色の木管楽器はとてもイギリスらしく、そして弦楽器がとても柔らかい音を出す。これをもっと洗練させると、フィルハーモニア管の音に近づいていく。
 技術的にも弱さを感じさせることは一切なく、むしろかなり上手いと思ったけれど、音量や機動力で勝負するというよりは、誠実に丁寧に音楽を作っていくスタイル。僕たちを音楽の愉しさの原点に立ち返らせてくれているようで、好感の持てる心地よい演奏をする。

 弦楽器の音が柔らかいので、最近のパワフルなオーケストラ(ベルリンフィルやロンドン響など)と比べるとどうしても響きが物足りなく感じるところがないでもなかったけれど、無理に大きな音を出して荒れた響きになることもなく、どこを取っても音に表情があって、常に丁寧に演奏しているのがよくわかる。
 この曲の演奏としては、その誠実な演奏姿勢ゆえに、やや小ぢんまりとした感じもあったけれど、バイオリンの長大なソロなどは見事だったし、戦いの場面も充分に盛り上がりがあって、必要なメリハリはきちんと付いている。(これは、実はこの曲を演奏する上ではかなり難しいことだと思う。)

 最後の「英雄の隠遁」は圧巻で、しっとりとした美しい弦楽器の響きを中心にして、非常に表情豊かな演奏。ただ、ここで描かれている英雄は、「かつて抜きん出た業績を挙げ、崇高な精神を保ったまま隠遁生活に入った偉大な人物」という感じではなく、「人懐っこい愛嬌のあるお爺ちゃんが、暖炉のそばで孫の顔を思い浮かべながらニコニコしている」というような描写だったように僕には感じられた。これはこの曲の解釈としては恐らく「正しい」ものではないだろうけど、演奏自体の質の素晴らしさに、聴いているこちらはとても幸せな気持ちになった。
 このオーケストラの姿勢をよく表した演奏だったと思う。
[PR]
by voyager2art | 2010-08-07 20:23 | オーケストラ

プロムス/ウェイン・マーシャル パイプオルガンリサイタル

Prom20
2010年8月1日(日) 16:00-
The Royal Albert Hall

曲目:
リヒャルト・ワーグナー作曲/ウェイン・マーシャル編曲
- ニュルンベルクのマイスタージンガー 第1幕への前奏曲
- タンホイザー序曲

ウェイン・マーシャル
「トリスタンとイゾルデ」の主題による即興演奏

リヒャルト・ワーグナー作曲/ウェイン・マーシャル編曲
- ワルキューレの騎行

 パイプオルガン界の若手のホープ、と演奏会でアナウンスのあったウェイン・マーシャルによるパイプオルガンのリサイタル。同じアナウンスによると、ロイヤルアルバートホールのパイプオルガンは世界最大規模とのことで、1万本のパイプを持つこのオルガンは「ワーグナーの華麗なオーケストラの世界を再現するには最適」。

 最初のニュルンベルクのマイスタージンガー前奏曲は、冒頭の和音の大音響に驚く。が、その後は頻繁な音色の切り替えのためかリズムが致命的なまでに崩れる上に、それぞれの和音が充分に響かないので、聴いている側は実はその大音響を持て余す。この曲は明解な印象とは裏腹にかなり複雑な構成になっている。僕は何度もこの曲を演奏したことがあるので奏者の意図が理解出来たけど、演奏としてはその意図が充分に実現されていたとは言い難い。この曲を初めて聴く人には、拍子などの音楽の基本的な構造すら理解できなかったのではないかと思う。
 続くタンホイザーは、比較的単純な構成でテンポも穏やかな部分が多いのでかなり聴きやすかった。音色の変化も効果的で、ワーグナーの旋律と和声の魔力を十分に楽しめる演奏だった。

 次の即興演奏はかなり面白かった。主題こそトリスタンとイゾルデ冒頭の旋律を用いているものの、和声や構成などは完全に演奏者の即興。いわゆる現代音楽になってはいたけれど、トリスタンで通常想像する音楽に比べると随分爽やかな音楽で、しかも充分な深みを持っていた。
 最後のワルキューレの騎行はかなり速いテンポで突き進む。オルガンという楽器の物理的特性なのか、低音域になるほどどうしても発音のタイミングが遅れ、こういう機動力の求められる音楽ではその発音のずれが無視できなくなってくる。それでも、演奏者自身も調子が出てきたようで、パイプオルガンの演奏としてはかなり優れたものだったと思う。

 演奏が終わってもまだ演奏者の興奮が収まらなかったようで、すぐにアンコールを弾いた。曲は直前に弾いたワルキューレの騎行に基づく即興演奏で、途中にトリスタンの旋律も聴こえてきた。このマーシャルという人は余程即興演奏を得意としているらしく、このアンコールはこの日の演奏会の中でも一番刺激的で面白い音楽となっていた。いちどこの人の即興演奏のみのコンサートがあれば行ってみたい。
[PR]
by voyager2art | 2010-08-07 20:20 | 器楽

ボリショイバレエ/ジゼル他

2010年7月28日(水) 19:30-
The Royal Opera House, London

演目:
チャイコフスキー:セレナーデ(弦楽のためのセレナーデ)
アダン:ジゼル


出演者:
 Ekaterina Krysanova, Anastasia Yatsenko, Anna Leonova 他(セレナーデ)
 Nina Kaptsova (Giselle)
 Ruslan Skivortsov (Albrecht)
 他


 ロンドンのロイヤルオペラ・バレエは夏のオフシーズンに入り、現在はモスクワから来たボリショイバレエ団がロンドン公演を行っている。ロンドンでバレエを見始めた僕にとって、ロイヤルバレエ団以外の団体でバレエを見るのはほぼ初めて。

 最初のセレナーデは、チャイコフスキーの有名な弦楽セレナーデを伴奏に、抽象的な(ただし振り付けは古典的)踊りが繰り広げられる。舞台セットは無し。
バレエ自体はやや退屈だった。ロイヤルバレエだと非常に優雅な舞台になっていたと思うけど、このボリショイバレエ、いま一つニュアンスに乏しい。動きから醸し出される情緒や優雅さよりも、動きそのものの方に興味があるような印象だった。ソロを踊っていたダンサーたちも魅力に乏しく、この演目自体の焦点がよく分からない。

 ちなみに、僕はこの公演のオーケストラは、ロイヤルオペラハウス所属のオーケストラが演奏するものとばかり思い込んでいたけれど、実際にはボリショイ劇場のオーケストラも同行して演奏していた。それに気付いたのは弦楽セレナーデの最初の音を聴いたとき。ロイヤルオペラのオーケストラの弦楽器は、非常に分厚くて均質で柔らかい音を持っているはずなのに、ピットから聞こえてきたのは非常にゴツゴツとした響き。アンサンブルも合わず、音程も揃わない。
 ボリショイ劇場と言えばロシアを代表する劇場なので、そこのオーケストラのレベルがこれほど低いというのは驚きだった。率直に言って、世界レベルに遠く及ばない。
 ロシアでは、ソ連崩壊後の経済混乱の中で優秀な奏者が多く欧米に流出したという噂を聞いたことがある。実際に、かつてカラヤン率いる西側の雄ベルリンフィルと名声を競った、ムラヴィンスキー率いる旧レニングラードフィル(現サンクトペテルブルクフィル)も、ソ連崩壊後に来日したときにはロシアの地方オーケストラかと思うほどに凋落していた。


 休憩をはさんで、この日のメインのジゼル。初めて観る演目で、今まで名前をよく聞く割に音楽を聴いたことがなかったけれど、その理由は舞台が始まってすぐに分かった。この演目の音楽自体は極めて単純で、とにかく伴奏だけは付けました、という程度の、非常に退屈なものだった。あとは踊り手の実力次第ということになる。

 この日の演目では、ジゼル役を踊ったニーナ・カプツォーヴァの素晴らしさが抜きんでていた。特に、アルブレヒトの正体を知って気が触れた場面の表現力は圧巻。
 ただ、それ以外はどうも個性に乏しい。さまざまな国籍のダンサーが集まって個性を競うロイヤルバレエと異なり、全員が個性を殺して、一直線に一つの価値観に向かっていくような印象だった。このあたりはやはりソヴィエト時代の遺産なのか、「美とはこういうものである」というイデオロギーが先にあって、ダンサーはそこにはめ込まれているような何かを感じた。

 ジゼル役のカプツォーヴァを始め、全体に水準は高かったとは思うけれど、見た目の華やかさとは裏腹の冷たさを感じる舞台だった。
[PR]
by voyager2art | 2010-08-07 20:15 | バレエ


ロンドンを起点に、音楽、写真、旅などについて書いていきます。メールは voyager2artアットマークgmail.comまでお気軽にどうぞ。


by voyager2art

プロフィールを見る
画像一覧

カテゴリ

全体
オペラ
オーケストラ
ピアノ
室内楽
器楽
バッハ平均律1巻
バレエ
ジャズ
写真
絵画
演劇
雑感
楽譜

旅行記
旅行情報
旅行下調べ

その他
未分類

最新の記事

こっそりとお知らせ
at 2012-04-10 06:02
このブログを終了します
at 2012-03-01 06:35
超期待!の若手/ブニアティシ..
at 2012-02-26 02:18
寄り道香港
at 2012-02-14 07:13
京都
at 2012-02-13 04:54

最新のトラックバック

Debussy & Sz..
from MusicArena
Brahms: Vn-C..
from MusicArena
音遊びをする人たち シベ..
from miu'z journal ..
どんちゃん騒ぎのカタルシ..
from miu'z journal ..
LSO/ティルソン=トー..
from LONDON BORING ..
例えばE=mc2の美しさ..
from miu'z journal ..
フィルハーモニア管/マゼ..
from LONDON BORING ..
ロイヤルオペラ/『三部作..
from ロンドン テムズ川便り
久しぶりに上手いオーケス..
from miu'z journal ..
新しい注目株の予感
from miu'z journal ..

以前の記事

2012年 04月
2012年 03月
2012年 02月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月

検索

その他のジャンル

ブログパーツ

  • このブログに掲載されている写真・画像・イラストを無断で使用することを禁じます。

ファン

記事ランキング

ブログジャンル

画像一覧